スマートシティにおける上田市と千曲市の観光型MaaS・温泉MaaSの可能性

スマートシティにおける上田市と千曲市の観光型MaaS・温泉MaaSの可能性

1. はじめに
 この記事は、千曲市戸倉上山田温泉での温泉MaaSの取り組みの調査を行い、その調査をもとに上田市の別所温泉での温泉MaaSの課題と展望を考察していく。そして以上の考察を基に、観光型MaaSや温泉MaaSでの共通した重要となる要因を明らかにする。

2. スマートシティの定義
そもそもスマートシティとは何かである。まずは、スマートシティの定義を整理することからはじめる。スマートシティとは、IoTやAIなどの最先端技術を活用し、エネルギーや交通網などのインフラを効率化することで生活やサービスの質を向上させた、人が住みやすい都市のことである。スマートシティという言葉の定義は、これまでも様々な機関で定義されている が、国土交通省によると「都市の抱える諸課題に対して、ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジ メントが行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区のこと」を指す。(内閣府ら、 2021、p.1)

3. MaaSの定義と現状
 「MaaS」(マース:Mobility as a Service)とは、国土交通省によると「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるもの」と指している。世界で初めてMaaSを実用化したMaaSGlobal 社は、 MaaSを「いつでもどこでも気軽(on a whim)に利用可能な全てのアセット(資産・財産)をスマートに使用する」と定義している。つまり、様々な交通サービスを一つのサービスに統合させて地域全体の最適化を図り、スマートシティの実現に寄与するものが MaaS であると言える。

4. 千曲市の温泉MaaS
温泉MaaSとは、特に温泉地を含む観光地において、ワーケーションとモビリティサービスを組み合わせて地域活性化を目指す試みを指す。千曲市の温泉MaaSでは、ワーケーションにおいて観光地においてアクティブベースドワーキング(Active Based Working)を実施してもらうために、自由な移動を提供することが必要になる。そこで、ワーケーション参加者が、異動したい時に、行きたい(仕事に合った)場所に行けるように、交通手段を統合的に提供する移動サービス「温泉MaaS」を構築することで課題解決を目指した。
株式会社ふろしきやは、「千曲市ワーケーション」参加者と協働で、観光案内、タクシー配車、レンタルサイクル、ワークスペース案内等を統合したワーケーション体験を高める「温泉MaaS」を行った。観光地を含む地域において、移動サービスの構築には、以下の3つのアプローチがある。それは、自治体主導型・事業者主導型・市民主導型のことである。千曲市戸倉上山田温泉の温泉MaaSは、市民主導型アプローチで利用者をワーケーション参加者に限定し、また利用期間をワーケーション体験会の期間のみに限定することで、小規模な実証実験から始められるようになった。この実証実験は、利用者の使い勝手を検討することとともに、地元の交通業者の方にデジタルな手法によるサービス提供を試してもらうことを目的としている。千曲市の温泉MaaSでは、まずワーケーション参加者と地域関係者が参加する温泉MaaSアイデアソンの開催を行った。アイデアソンとは、idea(アイデア)とmarathon (マラソン)を合わせた造語で、集まったメンバーでアイデアを出し合い、マラソンを走りきるように最後には一定のアイデアの方向性=アウトプット(成果)を創り上げるものである。そこで、視野を広げる、アイデア発散、アイデア収束、実装実行を行った。温泉MaaSのアイデアソンでは、グループ分けを行いペルソナの設定を行った。アイデアソンでのペルソナとは、課題テーマにおける商品やサービスを利用する架空の人物像を指す。そのペルソナを公共交通機関を利用するワーケーションで訪れる方、自家用車を利用し来訪する観光客、自動車を利用する利域で仕事をしている方、自動車を利用し地域で生活されている方、自動車を利用しない地域で生活されている方と設定してアイデアを出し合うディスカッションを行った。そこでは、初めていった地域で、タクシー配車を電話で依頼するのは心理的なハードルが高いため、そのハードルを下げる必要があるという課題が明確になった。
そのため、最初にタクシー予約機能を提供した。しかし、ご協力いただいた地元の交通事業者は今まで電話のみでの配車予約を受け付けていて、スマートフォンアプリからの予約には対応していなかった。そこで、温泉MaaSの実証実験で、スマートフォンアプリからの配車予約をパソコンで受け取る手法が受け入れ可能なのかという観点での検証も必要であった。
 温泉MaaSの第一回目実証実験(2021年2月25日実施)では、最初は「タクシー配車予約」という一つの機能からスタートした。そして、利用者向けのアプリとしてはLINEアプリを使ったLIFFアプリ方式を採用した。利用者はLINEアプリで、温泉MaaS公式アカウントに友達になることで、機能が使えるようになる。タクシーの配車予約に必要な情報を入力して登録することで、タクシー事業者に通知が行われ、タクシー事業者が配車完了入力を行うと、配車完了のメッセージ通知が利用者に行われる形である。

タクシーの支払いに使用するチケットは「温泉MaaSチケット」と命名し、将来的にタクシーだけでなく移動サービスや周辺サービスにも使えるようなものを想定した。ここでは、電子チケットの機能を実装することも検討したが、まずは紙に印刷したチケットを作成し運用することにした。これは主に以下の理由によるものである。電子チケットの実装に時間がかかること、電子チケットの既存サービス利用には手数料がかかること、電子チケットの支払いに慣れていないタクシー運転手とのトラブルが想定されることがあげられる。タクシー運転手は現金またはクレジットカード、従来のタクシーチケットの支払い方法には慣れているが、スマートフォンアプリの電子チケットには慣れていないのが現状である。支払いという金銭授受行為には一定の信頼度が重要となるが、いきなり電子チケットを導入するのはハードルが高いという理由である。参加者20〜30名に1人6枚を配布する程度であれば紙チケットの作成が可能であったが、その後、実証実験期間を延ばし1人あたりの配布枚数を増やしたため、想定通り紙チケットの作成の負荷が大きくなった。そのため電子チケット化の検討が進められることになった。
 第一回目実証実験の参加者フィードバックを行った。温泉MaaSで提供したタクシー配車予約機能は、参加者のうち70%(11名中8名)の方が利用されていた。参加者の利用アンケートを実施した結果、全般的な意見としては手軽に、安く、移動できる手段は欲しいとのことだった。このような参加者フィードバックを受けたうえで、優先項目の検討を行った。具体的には、タクシー配車予約の乗車範囲の拡大やレンタルサイクル予約・貸し出し機能、ロケーション案内機能、問い合わせチャットボットの導入などが細かく機能改良され提供された。

 また、新たな取り組みとして、千曲市の路線バスの活用促進を行った。きっかけとしては、千曲市のサイトで公開されている路線バスの路線図と時刻表は、地域に住んでいる方向けで、観光客やワーケーションで訪れる方には分かりづらいという課題を発見したのが始まりである。この分かりづらさの要因は三つあげられる。それは、路線ごとに時刻表が分かれていることや路線図がすべてのバス停留所を網羅していること、朝晩は例外的な路線や運行形態となっているという点だ。その課題を解決すべく、ワーケーションのワークスペース近くのバス停留所に絞ることや複数路線が通るバス停留所もあるため複数路線を合わせた時効表とすること、特に朝晩のイレギュラーな運行形態のバスは思い切って掲載しないこと、バス停留所のバス乗り場簡易MAPを作ることで観光客やワーケーションで訪れる方向けのMAP作りを行った。

「MaaS」は、直接的な移動の課題を解決するだけでなく、地域の方々が「MaaS」の構
築を行うことで、地域のさまざまな方や、いままであまり接点のなかった方とも関係を築くことで、そこから新たな発想に結びつき、MaaSの周辺サービスとして拡充していくことで、地域の活性化に繋がって行くのではないかと温泉MaaSの活動を通じて感じているとのことだ。私は、千曲市の温泉MaaSを調査したところ、アイデアソンで着目したいのは、ワーケーション参加者、地域関係者を巻き込み温泉MaaSについて考える機会になったのではないかということである。それによって、地域の方々が「MaaS」の構築を行うための第一歩に繋がると考えられた。

5. 上田市別所温泉の温泉MaaSの課題と展望
 別所温泉の交通課題を分析する。まず、別所温泉周辺は道が狭く自家用車で行く際は注意が必要であったり、駐車場が狭いという問題がある。そのため、別所温泉周辺での自家用車・タクシーによる移動は適していないと言える。また、電車やバスで別所温泉駅に着くことができれば、観光スポットが駅周辺の徒歩圏内にあり、移動の不便があまりなくゆったりと観光を楽しめるのが魅力であると考えられた。実際に、別所温泉観光協会公式ホームページでは、別所散歩 街歩きガイドマップがあり散歩しながら温泉や観光を楽しむことを推奨している。また、上田市の交通政策課が上田市・千曲市広域シェアサイクル社会実験を行っている。令和4年7月1日から12月18日まで別所線沿線の下之郷駅・塩田駅・別所温泉駅の3駅にサイクルポートが設置されている。この実験を通して別所温泉駅でのシェアサイクルを続けていくのかの判断が決まると考えられ、徒歩かシェアサイクルの利用を行うのかの移動手段の提供と移動しやすくなるという利便性が向上する、これこそMaaSの取り組みであると言える。そこで今回は、駅周辺の温泉MaaSの取り組みではなく、上田駅から別所温泉までの電車やバスによる移動のシームレス化の課題の解決策を考察しなければならないと考えられた。
 まず、上田駅から別所温泉駅までの電車は、運賃590円で約20本数で27~33分後に目的地に着くのが現状である。バスは、運賃が300円と安いが一日3~4の本数で約1時間25分後に目的地に着くのが現状だ。この結果を見ると私は電車での移動がおすすめだと感じたが、上田の町並みをゆっくり楽しむならバスでの観光が適切であると考えられた。観光客向けのサービスとして、電車かバスは人の好みや旅行プランによると思えたので、一つのサイトで電車とバスの比較のしやすいものにして、どちらも選択可能にする。また、電車かバスを選択した際に、シェアサイクルのセットで割引になるようなプラン形態の提供も考えられた。データの統合もMaaSで推し進めるべき点であると考えるため、観光するのに利用しやすい別所散歩 街歩きガイドマップとの統合も行うべきだと考えられる。せっかく便利な資料であるのにPDFファイルであるためスマホで使用しにくくお店の場所の紹介はあるが、どんなお店でどんな雰囲気なのか観光客が来たくなる情報が載っておらずお店の名前を新たなサイトで調べる必要性が出てきてしまう。この点を観光型MaaSとして、温泉MaaSとして行うべき点であると考えられた。

6. おわりに
 今回の記事では、スマートシティで観光型MaaSに着目し、事例調査を通して上田別所温泉での温泉MaaSの展望を考察することであった。千曲市の温泉MaaSでは、観光地を回るための手段としてスマホでタクシー配車予約ができるようにすることでのワーケーション参加者や観光客が利用したいと思わせる潜在的なニーズを取り上げ、LINEとの協働による利用しやすく便利な仕組みづくりを行っていた。その波及効果により観光地の地域活性化に繋げることができると分かった。千曲市の温泉MaaSと上田市の温泉MaaSでは、観光客やユーザーがどこで交通の不便さを感じるのかやMaaSで解決してほしい・求められるサービスが違うという事が理解できた。そこから、地域ごとで観光するにあたって交通の不便となる課題が違うため、先行事例を真似て取り組むだけではうまくいかないという観光型MaaSの全般における課題が明確になった。事例調査を行うことでMaaSを推し進めるための必要不可欠な要因は、ユーザー視点による「こんなサービスがあればいいのに」という要望を汲み取る機会や市民や観光客の理解の上で、意見交換を行う場の提供にあることが分かった。
 このようなことから、観光型MaaSや温泉MaaSを取り組む上での基盤として、観光客の理解や意見交換を行う情報共有のリアルとデジタル両方での場を提供することの重要性を導き出した。

【参考文献】
株式会社ふろしきや 『温泉MaaSの導入アプローチ』https://developers.onsen-maas.com/posts/17012474 (2022.8.10アクセス)
株式会社ふろしきや『温泉MaaSの開発(1)』 https://developers.onsen-maas.com/posts/18599682 (2022.8.10アクセス)
株式会社ふろしきや『温泉MaaSの開発(2)』https://developers.onsen-maas.com/posts/18600349 (2022.8.10アクセス)
株式会社ふろしきや『温泉MaaSの開発(3)』https://developers.onsen-maas.com/posts/18754032(2022.8.10アクセス)
株式会社ふろしきや『温泉MaaSアイデアソンの進め方(1)』https://developers.onsen-maas.com/posts/18921153 (2022.8.10アクセス)
株式会社ふろしきや『温泉MaaSアイデアソンの進め方(2)』https://developers.onsen-maas.com/posts/21216324 (2022.8.10アクセス)
株式会社ふろしきや『地域活性化活動としての“MaaS”の可能性』https://developers.onsen-maas.com/posts/20532945 (2022.8.10アクセス)
株式会社ふろしきや『温泉MaaSによる路線バスの活用』https://developers.onsen-maas.com/posts/23933190 (2022.8.10アクセス)
別所温泉観光協会『別所散歩 街歩きガイドマップ』https://www.bessho-spa.jp/map/bessho_map.pdf (2022.8.10アクセス)
内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省 スマートシティ官民連携プラットフォーム (2021)『スマートシティガイドブック』スマートシティ - Society 5.0 - 科学技術政策 - 内閣府 (cao.go.jp) スマートシティガイドブック(概要版) (cao.go.jp) (2021.7.29 アク セス)

登録日:2022-08-11 投稿者:kotou_u
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